■砲塔側面ペリスコープ・カバーを撤去した≪T-34≫

■1999年刊行、ロシアのエクスプリント社“アルマダ・ヴェルティカリ”シリーズ『КАМУФЛЯЖ　ТАНКОВ КРАСНОЙ АРМИИ 1930-1945』のP.46に、大変興味深い写真が掲載されている（下写真。同書より引用）。キャプションによるとモルダヴィア部隊所属のT-34で、撮影は1942年10月。形式は恐らくウラル戦車工場（第183工場）製のT-34・1941年戦時簡易型であると思われる。

　この車両で一見して気付く特徴は「砲塔側面のペリスコープ用装甲カバーが無い」ということである。
1941年戦時簡易型までの砲塔側面ペリスコープカバーは、砲塔から大きく張り出したその形状ゆえ破損しやすく、この部分にダメージを受けた車両も多かった。ペリスコープカバーを撤去した場合、砲塔側面装甲板にはペリスコープを装着するための長方形の穴が大きく穿たれているのだが、この車両では丁寧な工作でその穴を塞ぎ、更に中央にはT-34・1942年型以降と同様の処理がなされたビジョン・スリットをしつらえている。
　また注意深く見ると、その下に位置するピストルポートも装甲栓が外され、ピストルポートの孔自体を溶接により塞いでしまっているようだ（部分拡大写真参照）。

　本来ペリスコープ用装甲カバーが付く位置には、装甲カバーの形に溶接跡が残っているので、もともとの生産ラインからこういう仕様で製造されたというよりは、一旦は通常の形で製造されたものを破損等の理由で撤去・改修したと見た方が良さそうだ。


■部分拡大写真■

装甲ペリスコープカバーを撤去し、中央には新たにビジョン・スリットを設けている。
本来カバーが溶接されていたことを示す溶接跡と、下方に付く、これも孔を塞がれたピストルポートに注意。
■そんな折に見つけた写真がこれ。クルスク戦で遺棄されたT-34・1941年戦時簡易型だが、上の車両と同様、砲塔側面のペリスコープ用装甲カバーは撤去し、新たにビジョン・スリットを設けるという処理が為されている。

　更に左の車両各部の特徴を見ていくと、これは結構イレギュラーな車両である。

　車体は、各部の特徴から“クラスナエ・ソルモヴォ工場（第112工場）製”車体であると見てほぼ間違いないが、砲塔の方は“ウラル戦車工場（第183工場）製”ではないかと思われる。

　また、やや見にくいが、砲塔上面ハッチの前に位置するベンチレーター・カバーは、1942年型と同サイズと思しき大型のものに交換されている。

　以上からこのT-34は再生車両であると考えるのが妥当であろう。

　戦闘の破損により回収され、後方の工場に送られたが、何らかの理由（恐らくは既に生産ラインが六角砲塔の1942年型に移行していたため）から「砲塔側面ペリスコープ装甲カバー」や「小径のベンチレーター・カバー」といった1941年戦時簡易型までのパーツが入手出来ず、上に挙げたような改修がなされたのであろう。つまりそのような仕様書が存在していたということで、これまた非常に興味深い。


【2001/01/08】

■AJaKS-Military Books 刊の『T-34 STALIN'S WAR-HORSE』に上と同じ車両を別方向をから写した写真が掲載されている。

この写真から、砲搭右側面のバイザーもまた撤去されているのが確認できる。つまり、たまたま戦闘による破損のためバイザーを撤去したというより、防御上の理由から積極的に撤去し、ビジョン・スリットに更新したと考えた方が自然かも知れない。

【2004/09/18・追記】

■その後新たな写真を入手したので追加。

薄く残る白色迷彩に、砲塔ナンバーを赤？で「80」と記したT-34 戦時簡易型。1943年５月の撮影。

上記車輌と同様、この車輌も「ペリスコープ用装甲カバーの撤去 〜 ビジョン・スリット新設 〜 ピストルポート孔の閉鎖」といった一連の処理が為されているようだ。

■部分拡大写真■

またこの写真からだけでは確信出来ないが、砲塔上面前方のベンチレーター・カバーの天頂部の丸みがきつく見え、これも42年型と同様のものに換装されている可能性がある。

【2007/10/28・追記】
【2011/03/06・表記を修正】

■GIZMOLOGIC MEMO■

■TOP■